双極性障害で障害年金を受け取るまでの道のり ― 実例から学ぶ認定のポイント

「躁のときは元気に見えるのに、うつのときは布団から起き上がれない」

双極性障害を抱える方が障害年金を申請する際、最も困難な壁となるのが、この「症状の波」を審査機関にどう伝えるか、という点です 。うつ病や統合失調症と異なり、双極性障害は日や週によって状態が大きく変動するため、その実態が診断書や申立書に正しく反映されなければ、「実際よりも軽い」と判断され、不支給という厳しい結果につながることも少なくありません 。  

この記事では、双極性障害の特性に真正面から向き合い、申請における特有の注意点や認定のポイントを、実際の事例を交えながら具体的に解説します。

双極性障害とは?審査に影響するⅠ型とⅡ型の違い

双極性障害は、躁状態(気分が高揚する状態)とうつ状態(気分が落ち込む状態)を繰り返し経験する病気で、以前は「躁うつ病」と呼ばれていました 。障害年金の審査においても、この躁・うつの両方の状態が生活にどのような影響を与えているかが総合的に評価されます 。  

  • Ⅰ型双極性障害: 躁状態が非常に強く、異常なほどの多弁、計画性のない浪費、衝動的な行動などが顕著に現れ、社会生活に深刻なダメージを与えます。周囲から見ても明らかに異常な状態と認識されやすいのが特徴です 。  
  • Ⅱ型双極性障害: 躁状態は比較的軽い「軽躁状態」にとどまりますが、その後に長く重いうつ状態が続くことが多く、日常生活や就労に大きな制限をもたらします。軽躁状態は本人も周囲も「調子が良い時期」と誤解しやすく、その後の深刻なうつ状態との落差が生活を破綻させる要因となります 。  

この「波のある症状」が、診断や申請を複雑にする最大の要因です。実際、うつ病と診断されていた方が、数年後に双極性障害へと診断名が変更されるケースは決して珍しくありません 。  

初診日の落とし穴|診断名が変わった場合の注意点

双極性障害の申請で、最初にクリアすべき重要なハードルが「初診日」の証明です。

【実例】 20代前半の女性。最初に心療内科を受診した際は「うつ病」と診断され、抗うつ薬での治療が始まりました。しかし数年後、明らかに気分が高揚する躁状態が出現したため、主治医は診断を「双極性障害」に変更しました。

ここでの絶対的なポイントは、障害年金の初診日は、後から診断名が変更された日ではなく、原因となった症状(この場合はうつ症状)で最初に医師の診察を受けた日になるということです 。  

もし最初の病院が閉院していたり、カルテが廃棄されていたりして受診状況等証明書が取得できない場合でも、諦める必要はありません。診察券やお薬手帳といった参考資料を添えて初診日を申し立てる方法があります。また、治療を中断して長期間安定した社会生活を送っていた場合には、「社会的治癒」という考え方を用いて、通院を再開した日を新たな初診日として主張できる可能性もあります 。  

躁とうつの波が、いかに生活を破壊するか

双極性障害が日常生活に与える影響は、単なる気分の浮き沈みという言葉では片付けられないほど甚大です。

【ある男性のケース】

躁状態の時期、彼は夜通し家族に話し続け、ほとんど眠りませんでした。自己肯定感に満ち溢れ、次々と壮大な計画を立てては、必要のない高額な商品を契約し、気づけばカードローンで数百万円の借金を抱えていました 。  

しかし、うつ状態に転じると、彼は別人のようになります。食事は1日に1回も喉を通らず、入浴も週に1回がやっと。仕事に行く気力はもちろん、部屋の掃除や金銭の管理も一切できなくなり、家族の全面的な援助なしには生活が成り立たない状態でした 。  

このように、躁期と抑うつ期の落差が極端であるからこそ、診断書で「元気に見える部分」だけが切り取られてしまうと、その人の生活がいかに破綻しているかという実情が全く伝わらなくなってしまうのです。

診断書に反映されない「見えない実態」

診察時間はわずか数分です。比較的調子の良い軽躁状態の時期に受診すれば「元気そうですね」と記録され、うつ状態のどん底で受診すれば「抑うつ状態」と記録されます。しかし、障害年金の審査で問われるのは、診察室での一コマではなく、症状の波を含めた「生活全体の困難さ」です 。  

特に、以下のようなケースは実態が正しく評価されず、不支給につながる危険性があります。

  • 躁の時期に衝動的にアルバイトを始めたが、対人トラブルを起こして数週間で退職  
    →  診断書には「就労経験あり」とだけ記載され、労働可能と誤解される。
  • うつの時期は寝たきりだったが、診察時には何とか気力を振り絞って受け答えをした
    → 医師に本当の辛さが伝わらず「抑うつ気分あり」程度の軽い記載で終わってしまう 。  

認定された実例から学ぶ申請のポイント

事例1:30代女性(障害基礎年金2級)
パート勤務を試みるも、数ヶ月続くうつ期のために継続が困難。食事の準備や日用品の買い物も母親の援助がなければできず、日常生活に著しい支障があると判断され、2級が認定されました。

事例2:40代男性(障害厚生年金2級)
躁状態での浪費や家族への暴言が目立ち、家庭生活が破綻状態に。うつ期には自室に引きこもり、家族が食事を運ぶなど、全面的に援助が必要な状態と認められ、2級に認定されました 。  

事例3:通院中断があったケース(障害厚生年金2級)
数年間の通院中断期間がありましたが、その間は正社員として問題なく就労していたため「社会的治癒」を主張。通院再開後の日を初診日とすることが認められ、2級が認定されました 。  

更新時の壁|支給停止を防ぐために

双極性障害のもう一つの難しさが、数年ごとに行われる「更新」です。症状に波があるため、更新時の診断書作成時期にたまたま状態が安定していると見なされ、支給が停止されたり、等級が引き下げられたりするケースが少なくありません。

更新の際には、以下の点を改めて主張することが極めて重要です。

  • 躁とうつの波が依然として存在することを診断書に明記してもらう。
  • 家族からの援助内容や、職場での配慮事項を診断書に反映させる。
  • 「安定して見える瞬間」があっても、それは服薬と療養の結果であり、生活全体としては依然として制限があることを示す。

まとめ

双極性障害で障害年金を申請する際の最大のポイントは、「症状の波が生活全体に与えている深刻な影響を、いかに客観的に伝えるか」に尽きます。

  • 初診日は、後から診断名が変わっても、最初の受診日が基準です。
  • 診断書には、躁状態・うつ状態双方のエピソードを医師に伝え、日常生活がいかに制限されているかを具体的に記載してもらう必要があります。
  • 家族の援助なしに生活が成り立たない実態を、診断書や申立書に明確に反映させることが重要です。
  • 更新時も「安定して見える瞬間」に惑わされず、生活全体の支障を粘り強く伝えましょう。

一人で悩みを抱え込まず、必要に応じて専門家や家族と連携しながら申請を進めることが、経済的な安心を得て治療に専念するための確実な一歩となります。

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