働きながら障害年金はもらえる?国の基準から見る「正しい伝え方」

「仕事を始めると、障害年金はもらえないのでしょうか?」 「収入があると、申請で不利になりますよね?」

日々の相談で、こうしたお悩みを非常によくお聞きします。
ご自身の生活のために懸命に働いていることが、かえって経済的な支えを失う原因になるかもしれない。
そうした不安を抱えるのは、本当にお辛いことだと思います。

この記事でお伝えしたいのは、「就労=不支給」という単純な話ではない、ということです。
大切なのは、あなたの「働きづらさ」の現実を、国の基準に沿って正しく伝え、あなたの状態に見合った、公正な判断を得ることです。

そのために、審査で何が重要視されるのか、専門家の視点から解説します。

審査官は「就労の事実」ではなく「労働の“実態”」を見ている

障害年金の審査は、国が定める『障害認定基準』というルールに基づいて行われます。
そして、特に精神疾患の審査においては、その基準をより具体的に示した『精神の障害に係る等級判定ガイドライン』の内容が極めて重要視されます。

このガイドラインが示す最も大切な考え方は、「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えない」という点です。

審査官が知りたいのは、「あなたの力だけで問題なく働けているのか、それとも、多大な配慮や手助けがあって、ようやく働くことが成り立っているのか」という、その中身なのです。

審査で重要視される「働き方の実態」3つのポイント

では、具体的にどのような点が審査で考慮されるのでしょうか。

ポイント1:客観的な就労状況(雇用形態・勤怠など)

まず、契約内容や勤務状況といった客観的な事実が確認されます。

  • 雇用形態・利用サービス
    「就労継続支援(A型・B型)」や「障害者雇用制度」を利用している場合、その事実は「労働に大きな制約がある」と判断される重要な要素となります。
  • 労働時間・日数
    フルタイムではなく、週3日・1日4時間などの短時間勤務である場合、それは安定した長時間労働が困難であることの証左となります。
  • 勤怠の安定性
    「頻回の欠勤・早退・遅刻」など、症状によって出勤状況が不安定な場合は、就労を継続する能力が著しく制限されていると判断されやすくなります。

ポイント2:仕事の内容と職場で受ける援助

次に、仕事の具体的な中身と、それを遂行するための周囲のサポート状況が詳しく見られます。これらは、あなたの「働きづらさ」を直接的に示す最も重要な部分です。

【ガイドラインの視点】
就労にあたり、仕事の種類、内容、就労状況、職場で受けている援助、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認する。

この基準に沿って、以下のような事実を具体的に伝えることが求められます。

  1. 仕事の種類・内容の制限
    ・「臨機応変な対応が苦手なため、マニュアル化された単純作業に業務内容を限定してもらっている」
    ・「ストレス負荷の大きい部署から、より負担の少ない部署へ配置転換してもらった」
  2. 職場での援助・配慮
    ・「一度に多くの業務をこなせないため、指示は一つずつにしてもらっている」
    ・「ミスが多くなるため、上司や同僚に常にダブルチェックをしてもらっている」
    ・「体調不良時にすぐに休める休憩室が用意されている」
  3. 他の従業員との意思疎通の状況
    ・「対人緊張が強いため、電話対応や来客対応を免除されている」
    ・「会議での発言や、自身の意見を的確に伝えることが困難なため、議事録の作成などコミュニケーションを必要としない業務を中心に担当している」

これらの「援助や配慮がなければ、今の仕事を続けることは極めて困難である」という実態を、客観的に伝えることが求められます。

ポイント3:仕事が日常生活に与える影響

見落とされがちですが、仕事が私生活に与える影響も、あなたの困難さを示す重要な情報です。

【ガイドラインの視点】
就労の影響により、就労以外の場面での日常生活能力が著しく低下していることが客観的に確認できる場合は、その状況も考慮する。

これは、「仕事で全エネルギーを使い果たし、帰宅後は食事や入浴もできずに寝込むだけ」「休日は一日中横になっていないと、次の週の仕事に備えられない」といった状況を指します。

【当事務所の解決事例】一般企業のフルタイム勤務で公正な判断を得られたケース


ここで、当事務所で申請をお手伝いした、うつ病を患う40代の女性・Aさんの事例をご紹介します。
Aさんは一般企業でフルタイム勤務をされていましたが、うつ病の症状により、頻繁な欠勤・遅刻を繰り返していました。また、対人恐怖が激しく、職場で周囲との円滑なコミュニケーションが取れないことにも深く悩んでおられました。

私はAさんへのヒアリングを重ね、その「実態」を明らかにしていきました。
Aさんの職場では、上司や同僚の深い理解のもと、担当業務量を他の従業員の4分の1程度にまで減らしてもらうなど、多大な配慮がなされていました。

これらの事実を「病歴・就労状況等申立書」に詳しく記載するとともに、Aさんの上司の方にご協力いただき、職場での具体的な状況について詳細な証明書「就労状況に関する申立書」を作成していただきました。

その結果、「フルタイム勤務」という表面的な事実だけではなく、その裏にある労働の困難さが客観的に評価され、無事に障害厚生年金3級の受給が決定しました。

まとめ:あなたの「困難さ」を、あるがままに伝えるために

ここまで見てきたように、「働いている」という事実だけで、障害年金の受給を諦める必要はまったくありません。
しかし、ご自身の「働きづらさ」や「職場の配慮」を、国の基準に沿って、審査官が納得するレベルで客観的に証明するのは、決して簡単なことではありません。

言葉が足りなければ、あなたの困難さは正しく伝わりません。
逆に、実態以上に過剰に書いてしまえば、診断書との矛盾を指摘され、信憑性を失いかねません。

私たち専門家の役割は、特定の等級をお約束することでは決してありません。
それは、あなたの置かれた状況と、あなたが日々感じている困難さを、丁寧にお聞きし、ありのままの姿で、かつ、審査の土俵で正しく評価される「言葉」と「書類」に翻訳していくことです。

それによって、あなたが本来受けるべき、公正な等級の認定を得るためのお手伝いをすること。それこそが、社労士の使命だと考えています。

もし、ご自身の状況をどう伝えたら良いか分からずお悩みでしたら、一人で抱え込まず、ぜひ一度、あなたのお話をお聞かせください。